高齢の親の心の健康を守るために:気づきのサインと寄り添う声かけのポイント
高齢の親の心の健康に関心をお持ちの皆様へ
ご自身の親御さんのささいな変化に気づき、「もしかしたら心の元気がなくなっているのではないか」と心配されることがあるかもしれません。年齢を重ねるにつれて、体力的な変化だけでなく、社会との関わりの変化や身体の不調、大切な人との別れなど、様々な出来事が心の健康に影響を与える可能性があります。
しかし、親御さんの心の状態をどのように見守り、どのような言葉をかければ良いのか、戸惑う方も少なくないでしょう。このコラムでは、高齢の親の心の不調のサインに気づくためのヒントと、親御さんの気持ちに寄り添い、安心感を与えるための具体的な声かけのポイントについて解説します。
高齢期に起こりやすい心の状態の変化について
高齢期には、身体機能の低下、慢性疾患の増加、社会的な役割の変化(退職など)、親しい人との死別などが重なり、抑うつ状態(気持ちが沈み込む状態)や不安を感じやすくなることがあります。これらは決して特別なことではなく、誰にでも起こり得る自然な変化の一部と捉えることができます。
重要なのは、これらの変化を放置せず、適切なサポートを検討することです。ご家族が早い段階で変化に気づき、優しく見守ることで、親御さんが抱える心の負担を和らげ、より穏やかな日々を送るための一助となることが期待されます。
心の不調に気づくための具体的なサイン
親御さんの心の変化は、言葉だけでなく、行動や生活習慣に現れることがあります。以下のようなサインが見られた場合、注意深く見守ることをおすすめします。
- 感情や気分の変化
- 以前は楽しんでいた趣味や活動に興味を示さなくなる。
- 些細なことでイライラしたり、怒りっぽくなったりする。
- 涙もろくなる、または感情の起伏が乏しくなる。
- 「もうだめだ」「死にたい」など、悲観的な発言が増える。
- 行動や生活の変化
- 外出を嫌がるようになり、家に閉じこもりがちになる。
- 身だしなみに無頓着になる、清潔感が失われる。
- 食事の量が減る、または急に増えるなど食欲に変化がある。
- 睡眠のリズムが乱れる(夜眠れない、昼間にうとうとしていることが多いなど)。
- 人と会うのを避ける、電話にも出なくなるなど、交流を断つようになる。
- 以前はできていた家事や簡単な作業ができなくなる。
- 身体の不調
- 「体がだるい」「頭が重い」「食欲がない」など、具体的な不調を訴えるが増えるが、病院では異常が見つからない。
- 肩こりや頭痛、便秘など、これまでになかった身体症状を訴える。
これらのサインは、疲労や加齢によるもの、あるいは他の病気が原因である場合もあります。しかし、いくつかのサインが重なっていたり、長く続いていたりする場合は、心の不調の可能性も考慮に入れることが大切です。
気持ちに寄り添う声かけのポイント
親御さんの心の不調のサインに気づいた時、どのように声をかけ、接すれば良いのでしょうか。ここでは、親御さんの心に寄り添い、安心感を与えるためのポイントをご紹介します。
1. 傾聴の姿勢を大切にする
まずは、親御さんの話をじっくりと聞くことに徹してください。アドバイスをしたり、意見を押し付けたりするのではなく、親御さんの気持ちをそのまま受け止める姿勢が重要です。
- 「そう感じているのですね」「大変でしたね」など、共感を示す言葉を挟んでください。
- 途中で話を遮らず、最後まで耳を傾けてください。
- 親御さんが話したくない様子であれば、無理に聞き出そうとせず、「いつでも話を聞く準備があるよ」という姿勢を示してください。
2. ポジティブな言葉よりも、共感の言葉を
「元気を出して」「頑張って」といった励ましの言葉は、時にプレッシャーになることがあります。代わりに、親御さんの感情に寄り添う言葉を選ぶようにしてください。
- 良い例: 「最近、少し元気がないように見えるけれど、何かあったの」「もしかしたら、しんどい気持ちを抱えているのかもしれないね」「心配しているよ」
- 避ける例: 「しっかりして」「いつまでもそんなことじゃだめだよ」「もっと前向きに考えたら」
3. 具体的な行動でサポートを示す
言葉だけでなく、行動でサポートを示すことも重要です。親御さんの日常生活を少しだけ手伝う、一緒に散歩に出かけるなど、小さなことでも構いません。
- 「疲れている時は、無理しなくていいからね。何か手伝えることはある」
- 「気分転換に、一緒に〇〇へ行ってみない」
- 親御さんが楽しめるような活動(以前好きだった趣味、昔のアルバムを見るなど)を提案してみてください。
4. 専門家への相談を優しく促す
ご家族のサポートだけでは限界があると感じる場合や、心の不調が長引く場合は、専門家への相談を検討することも重要です。親御さん自身が受診に抵抗を感じることもあるため、慎重に、そして寄り添う姿勢で提案してください。
- 「〇〇(親御さんの体調変化や困りごと)について、一度お医者さんに相談してみないか」「かかりつけの先生に、今の気持ちを話してみるだけでもいいかもしれないよ」
- 精神科や心療内科に抵抗がある場合は、まずは地域のかかりつけ医に相談してみることを勧めるのも良い方法です。かかりつけ医から専門機関への紹介を受けることも可能です。
- 地域包括支援センターや保健センターなど、身近な相談窓口の存在を伝え、「一緒に話を聞きに行ってみようか」と提案することも有効です。
家族を支えるあなたのセルフケアも大切です
ご自身の親御さんの心の健康を気にかけるあまり、ご自身が心身の疲れを感じてしまうこともあるかもしれません。家族を支えるためには、まずご自身の心の健康も大切にすることが不可欠です。
- 完璧を目指しすぎない: 全てを一人で抱え込まず、できる範囲でサポートすることを心がけてください。
- 休息を意識的に取る: 短時間でも良いので、好きなことをする時間や、リラックスできる時間を持つようにしてください。
- 信頼できる人に相談する: パートナーや友人、親戚など、信頼できる人に話を聞いてもらうことで、気持ちが楽になることがあります。
- 地域の相談窓口を利用する: 家族の介護やメンタルヘルスに関する悩みは、地域包括支援センターや自治体の相談窓口でも相談できます。専門家からの客観的なアドバイスは、負担軽減につながります。
まとめ
高齢の親の心の健康を守るためには、日頃からの細やかな見守りと、変化に気づいた時の優しい寄り添いが何よりも大切です。すぐに結果が出なくても、親御さんの気持ちに耳を傾け、根気強く関わり続けることで、きっと心の支えとなることでしょう。そして、ご自身も無理なく、心身の健康を保ちながらサポートを続けていくことを忘れないでください。